問屋町の保育園
企業主導型保育所
この保育所は、平成29年度より内閣府が進めている「企業主導型保育事業」にもとづいて設置される保育所となっています。地域の企業がつくる保育所であり、地域の子供の受け入れ(利用定員の50%以内)も可能であることから、現在待機児童対策の切り札として今後の展開が期待されています。昨年度に引き続き設計のご依頼を頂きました。
店舗と共存する保育園
本計画は、問屋町内にあったオレンジホール跡地に計画された問屋町テラスに入居するテナントの1つとなります。地域と密接に関わりを持つ場所として計画するために初期段階から計画に関わらせていただくことで、明確なコンセプトを持って基本設計を始めることにしました。「街のような保育園」というキーワードを元に設計をスタートさせました。
「街のような保育園」
保育園を事業的に分析すると、まずは園児の定員を確保する事が重要であることが分かりました。地域の需要と施設の運営を考えると19人という定員が与条件として浮かび上がります。与えられたテナントスペースは100㎡弱。今までの経験上1人あたり6㎡という数字がゆとりのある保育園として計画できる設計要件であると考えていたので、不足してしまいます。この不利な状況を逆手にとり、「保育室以外をしっかりと設計し、残った部分をすべて保育室として考える」という手法にたどり着きました。
しっかりと設計する=家型の部屋をまとめる 残った部分=広場=子供が自由に走り回れる保育室
設計する事としない事を整理して、部屋をつくることと広場をつくる事としてまとめました。これは従来の街のつくり方と類似している部分があります。例えば分譲地。家を設計することは可能ですが、道路まで設計することはできません。順番が前後していますが、設計の及ぶ範囲は同じです。そして計画された住宅が街の雰囲気を決定づけることは明らかです。最終的には広場に関しても手を加えることになりますが、半分オートマティックに設計が進むことになりました。
店舗工事の工期を意識する
今回はテナント工事であるため、もう一つ厳しい条件がありました。それは工期です。複雑な工程を組んでしまうとオープンまでに間に合わない可能性があったため、従来通りの内装工事と特化した部分を一つだけ提案することで、他にはない保育園となるように配慮しました。家型の象徴である屋根にターゲットを絞り、不燃古材を用いて棚上の屋根をシンボルとすることで空間の室をあげるように配慮しました。
お迎えを演出する
照明計画は冬の夕方で暗くなっても園児のみんながほっこりとした気持ちでお母さんやお父さんを待てるよう温かみのある計画としています。必要な照度はダウンライトなどで確保し、間接照明を的確な場所に配置することで、柔らかな光を計画しました。園児の活動に支障のないようにブラケットライトやペンダントライトも併用し、アクセント付けを行っています。
共存するという考え方
問屋町という商業施設と住宅が混在する都市的なエリアにふさわしい保育園とは何か?というシンプルな問題に真正面から取り組むことになりました。セキュリティの問題が厳しくなっている昨今、どこまで保育園を開くことができるのか?ということを常に意識して取り組んだプロジェクトになります。事業形態を一つの切り口にしたモデルになることを期待したいと思います。
PHOTO by 松尾浩靖(FIVE GRAPHICS)